SPECIAL

「劇場版 Free!-the Final Stroke-」後編

スタッフトーク
オフィシャルレポート
【前半】

2022年5月24日

河浪栄作(監督)×笠井信吾(美術監督)
×米田侑加(色彩設計)×髙尾一也(撮影監督)

2022年5月24日、MOVIX京都にて『劇場版 Free!-the Final Stroke-』後編の公開を記念したスタッフトーク付上映が開催され、その様子は全国12館の劇場へリモート生中継されました。登壇者は監督の河浪栄作さん、美術監督の笠井信吾さん、色彩設計の米田侑加さん、撮影監督の髙尾一也さんの4名で、『Free!』シリーズで音楽プロデューサーを務めてきた斎藤滋さん(ハートカンパニー)のMCのもと、バラエティに富んだ資料とともに本作の制作にまつわる話をご紹介いただきました。

──まずは皆さんの自己紹介をお願いします。

笠井:美術監督を務めました笠井信吾です。主にキャラクター以外の絵を描いています。よろしくお願いします。

米田:色彩設計の米田侑加です。色彩設計とは、簡単に言うと作画スタッフの描いた絵にどんな色を乗せるかを考える仕事です。

髙尾:撮影監督の髙尾一也です。撮影は背景とキャラクターとCGを組み合わせて一つの映像を作るセクションです。その他いろいろと監督の悩みなどを聞いたりする仕事です(笑)。

河浪:これが終わったら髙尾さんに悩みを聞いてもらおうと思っています。監督の河浪栄作です。

──本日は各セクションのお仕事のこだわりについてお伺いしていこうと思います。まずは美術監督の笠井さんから、よろしくお願いします。

笠井:本作における美術背景のこだわりをご紹介していこうと思います。まず、『Free!RW』と『Free!FS』の制作の間に版権の仕事(京アニショップ「#on my day off」シリーズ)があり、その中で『Free!FS』の背景をどのように進化させていくかを考えていました。たとえば、「ここは背景の明るさを落としてキャラクターに光を当てたらきれいかな」など、キャラクターがかっこよく見える背景にこだわっています。また、キャラクターの色味を背景の中に入れたりもしつつ、そのキャラクターが映え、そこにいるように見える背景を目指しました。止まった絵の仕事ではありましたが、当時はこれを『Free!FS』のアニメーション内にも反映できないかな、ということを考えていましたね。

笠井:こちらは本作で登場する遙と東のトレーニングプールです。打ち合わせ時に河浪監督から『Free!FS』後編では遙がしんどくなる描写があるので「浅い夜」のイメージにしたいというお話があり、そこで資料のように「昼色」「曇り色」「浅い夜色」のイメージを膨らませた見取り図を作りました。最初は「浅い夜色」のイメージが掴めなかったので、一度自分なりの色を作ってから、遙のしんどさや、体力的にも弱っている雰囲気が出るように調整を加えて完成へと至りました。また「曇り色」の方は光量を減らし、写真なども参考にしつつ調整しています。

笠井:こちらも美術ボードですが、『Free!FS』後編でのこだわりポイントがあります。これまで教室はあまり登場していなかったので、美術設定を最初から作ることにしました。本作ではきれいな教室にしたいと思い、1期の教室の雰囲気も取り入れつつ、映画のクオリティになるように、リアルに見えるように美術ボードを描きました。後ろの掲示板やランドセルは1期10話に登場した教室でも描いてあったもので、そのイメージが残るように注意しつつ、劇場版のクオリティになるように描き込み具合や光の当たり方などを調節しています。ここはこだわったので注目していただきたいですね。

笠井:こちらは遙と凛が対決するナイトプールです。最初にナイトプールと聞いたときは、「遙と凛がナイトプールで何をするんだろう?」と思いながら作っていました。監督から指示があり、U字型のプールではありますが、コースロープやスタート台などをわざわざ持ってきています。誰が持ってきたのかはちょっとアレなんですけどね(笑)。プールの雰囲気については、なるべく真剣味や試合の意気込み、勢いを表現しようと思いました。遙と凛のイメージカラーである青と赤をただ混ぜただけの紫や、実際のナイトプールそのままの色では雰囲気が違ってしまうので、それは避けようと思いました。華やすぎる色は控えめにしつつも、キャラクターがいなくても遙や凛がそこにいそうな感じが出る背景を目指しています。また、実際のナイトプールは水深も浅いですが、ここは1.5mくらいにしています。本当の競技用プールだと水深は2mくらいになりますが、それだと2人が立ち泳ぎしながら会話をすることになってしまうので調整しました。

笠井:映画館のシーンは、遙の青色をプラスして、深海っぽいイメージにしています。

笠井:これは『Free!FS』前編のシドニー大会のプールと、後編のフクオカ大会のプールの色の違いを見比べてもらうために用意した資料です。シドニー大会のプールは、水色系に多少緑色をプラスして青緑系の色にしています。一方でフクオカ大会のプールは、青みを強くしています。また、泳いでいる選手がよく見えるプールにしたかったので、プール全体が光って見えるように意識しました。会場の中心にあるプールを光らせて、周りを暗く落としています。ぜひそのあたりを見ていただきたいですね。

笠井:また、本作ではプールの金属部分へのこだわりがあります。スタート台の取っ手の金属部分に反射を描きこむことで、実際に掴めそうなリアルさと美しさを追求しています。このあたりは、冒頭でお話しした『Free!RW』の版権で意識したことが反映されている部分だと思います。

笠井:これは『Free!FS』後編の背景をいくつか並べた資料ですね。実際にありそうですが、ほぼ架空の場所です。本当にキャラクターがいるような感じを作りたくて、奥行や空間、雰囲気を大切にして描いています。

笠井:これも後編の背景で、上の2枚が東京で下の2枚がハンガリーですね。それぞれの舞台の違いも楽しんでいただければと思います。また、ハンガリーの方は湿気の多い日本とは違うイメージにしたかったので、わざとカラッとしていて空気が透き通った感じにしています。影色も黒を使って暗くして海外っぽさを出しています。

笠井:クイズを用意してみました。それぞれどの作品で使われたものでしょうか。

【答え】①『映画 ハイ☆スピード!』
②『Free!FS』前編 ③1期 ④3期

笠井:1期ではコースロープを背景で描いていました。また、3期ではプールの映り込みを3DCGで作成するようになったので、背景では映り込みを無くしています。そのあたりがヒントになるかなと思います。

笠井:次のクイズです。それぞれどの作品で使われたものかお分かりでしょうか。

【答え】①2期 ②3期 ③『Free!FS』前編 ④1期

笠井:背景ではこんな仕事もやっていますという紹介ですね。こういった絵は「ハーモニー」といって、作画スタッフから線画、仕上げスタッフから色をいただいて、背景スタッフが色を塗っていきます。これも背景の仕事です。

──ありがとうございました。続いて色彩設計の米田さん、よろしくお願いします。

米田:私からはキャラクター周りの色についてお話ししたいと思います。まずは本編で出てきたジャージの完成までの工程です。上がシドニー大会、下がフクオカ大会のジャージです。これらの色を決めるにあたり、まずキャラクター設定の岡村公平さんに描いてもらったテスト用の線画にテスト着彩を行いました。その後、全体のバランスをみながらブラッシュアップしていき、完成版へと仕上げていきます。シドニー大会のジャージに関しては、以前、渋谷の交通広告で描き下ろされていたジャージをもとに色を考えました。テスト着彩では、まだ設定がない背面部分を前面と同じテイストで塗ったのですが、少しさびしい印象だったので、河浪監督の案で完成版では後ろに黒いラインを足しています。より締まってかっこいい感じになっていますね。フクオカ大会のジャージでは、黒と青という色のオーダーがありました。足の先には、今までにないグラデーション処理も入れています。テスト着彩ではさりげない感じでグラデーションが見えるように色を入れましたが、河浪監督や岡村さんとも相談して、最終的にはグラデーションがよく目立つ色になりました。あとは腕と足が少しさびしいということで、そこに文字も足されていますね。

米田:これは私がジャージの色を考えたときのバリエーションです。色を作る際に意識しているのは、キャラクターみんなが着て似合うかどうか、背景に乗ったときにちゃんとキャラクターに目が行くか、などです。特に『Free!FS』後編のフクオカ大会のプールは青みが強い背景だったので、黒を前面に出しつつ目立つ青色を入れた方がキャラクターもかっこよく締まるし、目が行きやすいかなと判断して色を決めました。

米田:こちらが完成した色です。『Free!FS』らしいかっこいい感じに仕上がったと思います。本編では見えない子もいるのですが、一応インナーTシャツや靴などもキャラクターごとに決まっています。

米田:遙のインナーTシャツについては「絶対に白がいい」という希望を私から出しました。これまでの『Free!』シリーズでは遙はみんなのヒーロー的存在で、みんなが遙の魅力に魅せられて遙がみんなを引っ張っていくという話でしたが、『Free!FS』は逆に遙がみんなに支えてもらう番でした。インナーに色を使うとその色の意味が強くなってしまうので、遙の美しさや儚さを出すために、青や濃い色ではなく「ぜひ白でいきたいです!」と推しました。

米田:こちらはグラデーション処理が実現可能かどうかをテストした際の資料と、渚・怜・似鳥の大学ジャージのペイント素材です。撮影スタッフに処理を行ってもらう際に、動きが付いても問題無くグラデーションが表現されるか、キャラが重なった場合にもうまくいくかどうかを試しました。合宿でみんなが着ているジャージについてもどのように塗り分けたらきれいなグラデーションになるか試行錯誤しましたね。 新しく大学生になった渚、怜、似鳥のジャージですが、絵コンテを読んだときから怜と似鳥は霜狼学院大学のジャージが絶対似合うだろうと思っていました。ただ、渚は悩みまして……。もともと金城のために作った黄色が基調のジャージを黄色い髪の渚が着ることになり、上手く馴染むかどうかわからず、いっそ学年ごとでジャージの色を変えることも考えたくらい、どうしようかと思っていました。でも、いざ乗せてみたらこれが渚にバッチリはまり、河浪監督も「いけるやん」と言ってくれましたね。Tシャツをピンクにしたことでより渚らしくて可愛い感じになったと思います。

米田:キャラクターのイメージカラー(『Free!』シリーズポータルサイト参照)についてもご紹介します。イメージカラーというのはキャラクターを表す色のようなもので、厳密に決まっている作品もあればそうでない作品もあります。『Free!』シリーズは割と厳密に決まっていて、『映画 ハイ☆スピード!』からメインキャラがたくさん増えたので、管理するためにRGB表記含めた一覧表も作りました。作品を重ねるごとにキャラが増えていきますが、他のスタッフに伝えるときにも一覧表は役に立っています。「遙の青ってどういう青ですか?」と聞かれたときに、一覧表を見せて説明するとわかってもらいやすいですね。

米田:イメージカラーを使って色変えをすることもあります。これは『Free!FS』後編のキャラクターソングシングルシリーズのジャケットイラストですね。左はノーマル色という基本の色ですが、中央は遙のイメージカラーの青で色変えしたものです。その後右のようにデザイナーさんにデザインを組んでもらって皆さんにお届けする製品になります。 過去の版権でもこのようにイメージカラーで色変えしたものがありますね。

米田:最後はミサンガのお話です。このミサンガの色について、河浪監督から最初に提案していただいたのは和の色で、リレー決勝メンバーのイメージカラーっぽくなっています。そのままだとちょっと渋い感じがしたので少し彩度を上げて鮮やかにしています。キャラクターカラーでありつつ、日本の色というのがこのミサンガの色のベースですね。また、ミサンガには『Free!』という文字の刺繍も入っています。本編では撮影スタッフの方で『Free!』の文字を貼り込んでもらっています。ぜひ本編で探してもらえればと思います。余談ですが、『Free!FS』後編では金城もミサンガをつけていて、これは渚にねだられてつけたのだと河浪監督が言っていました(笑)。

──ありがとうございました。続きまして撮影監督の髙尾さん、お願いします。

髙尾:今日は皆さんに撮影は「こんなこともしているのか」というこだわりの部分をご説明できればと思います。

髙尾:たとえばこのカットで撮影がどこにこだわっているかと言いますと……。

髙尾:このコップですね。撮影はこうした隅々にまでこだわって処理をかけています。わざわざ3DCGでコップを作って、その質感を作画のコップに貼り付けています。

髙尾:このペットボトルもすごくこだわっています。これも3DCGで作ってから質感を貼っています。「最初から3DCGで作ればいいのでは?」と思われるかもしれませんが、作画や仕上げのスタッフが作ってくれた素材に質感を貼っていくことで、手書きとリアルの中間のような独特で魅力的な効果が狙えるかなと思っていました。3DCGだけではこの雰囲気をだすのはなかなか難しい部分ではあります。

髙尾:このあたりも3DCGで作った質感を貼っています。撮影班には優秀なスタッフがたくさんいるので、僕がお願いせずとも自ら進めてくれています。さっきのペットボトルも本当は僕が作ろうと思っていたのですが、「もうできましたよ!」と言われてしまって(笑)。優秀なスタッフたちに助けられています。

髙尾:次はこのナイトプールのシーンでのこだわりについてです。

髙尾:遙の影の中にライトの赤い光が入っています。この処理は色指定スタッフの方から提案されたものです。影の中に赤いグラデーションの光の照り返しが入って魅力的な効果が生まれているのではないでしょうか。僕だけでは思いつかなかった手法なので提案してくれたスタッフの方には感謝しています。これはすべてのセクションが集まって制作している僕たちのスタジオらしいエピソードだと思います。

髙尾:これは米田さんがぜひ語らせてほしいと言っていたカットです。

米田:先程のライトの処理はこのシーン担当の色指定スタッフが提案してくれました。大変おもしろい提案だったので私も、それならこのシーンの水は普通の色だとつまらないだろうと思い、ハイライトの色をピンクにしたり、影の青みをもっと強くしたり、ノリノリでやっていました。それが楽しかったですというお話です(笑)。

髙尾:ナイトプールのライトが赤いのは凛を象徴しているんですよね?

河浪:そうですね。遙と凛の青と赤です。

髙尾:次はこのWebミーティング中の画面です。こういうデザインも撮影で作ったりしていますが、ここでのこだわりはどこかと言いますと……。

髙尾:ここですね(笑)。「LOVE-KINNIKU」とありますが、こういった細かい部分も指定がなければ撮影で考えます。僕は「筋肉女子会」が良いと主張して、このカットを担当した撮影スタッフと小一時間揉めまして……。

髙尾:でも結局河浪監督からのリテイクがあって、本編では「江のトークルーム」となっています(笑)。

髙尾:次はこのカットです。ここでこだわった部分はどこかと言いますと……。

髙尾:タイムコードが遙の誕生日からスタートしています。「00:00」でも良かったのですが、ここは遙が自分を見つめる話に入っていくところなので、生まれた日から始めた方が印象的かなと思い制作しました。

髙尾:また、この渋谷の広告のデザインなども撮影が担当しています。

髙尾:これは最初に監督が作った資料ですね。監督からこんな感じで作ってくださいという案が来ます。

髙尾:その案を踏まえつつ制作したのがこちらです。

髙尾:ただ実際に貼り付けてみると、少し暗い印象になってしまいました。

髙尾:そこでもっとスタイリッシュにしようということで、最終的にこのような形になりました。全然関係ないですが、みんなが着ていたジャージのあのブランド名が「アクアスポーツ」だということは、ここで初めて知りました(笑)。

──ありがとうございました。それでは河浪監督のターンです。お願いします。