SPECIAL

「劇場版 Free!-the Final Stroke-」前編

プロデューサートーク第1回
オフィシャルレポート

2021年10月14日

八田真一郎(京都アニメーション)×中村伸一(ポニーキャニオン)
×斎藤滋(ハートカンパニー)×西出将之(ABCアニメーション)

2021年10月14日、新宿ピカデリーにて『劇場版 Free!-the Final Stroke-』前編の公開を記念して、『Free!』シリーズでは初となるプロデューサートークが開催されました。登壇者は『Free!』シリーズを企画当時から支えてきた、八田真一郎さん(京都アニメーション)、中村伸一さん(ポニーキャニオン)、斎藤滋さん(ハートカンパニー)、西出将之さん(ABCアニメーション)。MCは飯塚寿雄さん(松竹)にて、『Free!』シリーズにまつわる様々なエピソードと貴重な資料をファンの方からの質問を交えながらご紹介いただきました。

──まずは、皆さんの自己紹介をお願いします。

八田:京都アニメーションにてプロデューサーを担当しております。『Free!』シリーズでは、アニメーションの制作と作品全体の責任者としての役割を担当しています。

中村:ポニーキャニオンとしては、宣伝とパッケージ周りの担当をさせていただいております。自分はその統括的立場となります。

斎藤:音楽を作っております。ハートカンパニーの斎藤です。よろしくお願いします。

西出:放送局のプロデューサーとして、作品が放送基準を満たしているかどうかを確認したり、作品のシナリオがより魅力的になるようアドバイスをしたりしました。

まず会場内アンケートを行いました。『Free!』シリーズの歴史を振り返りながら、会場にお越しの皆様が、どの作品からシリーズを知ったのかを伺いました。
京都アニメーションの『企業CM~水泳編~』からご存知の方は2割ほど、1期TVアニメ『Free!』からの方は7割ほど、と多くのお客様が初期から『Free!』シリーズを楽しんでいただいていることが分かりました。

質問

京都アニメーションさんでは『Free!』以前の作品はPCゲーム作品等の女の子キャラが多く、男性がターゲットになる作品が多かったと思うのですが、女性をターゲットにした作品を企画されたきっかけ等があればお伺いしたいです!

八田:第2回京都アニメーション大賞奨励賞を受賞されたおおじこうじ先生の作品『ハイ☆スピード!』(京都アニメーション/KAエスマ文庫)が作品の原案となり、当時アニメーションDoという京都アニメーションの姉妹会社(※2021年現在は京都アニメーション・アニメーションDo事業部として合併)が京都アニメーションとは違う色の作品創りができないかと、経験も浅い中ではありましたが、企画書を作ってみようと動き出したのがきっかけでした。
企画書は当時のタイトルを原作ままの『ハイ☆スピード!』でして、各プロデューサーの皆さんにご賛同を得るために打ち出したコンセプトは「水泳×絆×青春×上半身」でした。

斎藤:「上半身」結構強いですよね(笑)。

八田:これで各社プロデューサーの皆さんに興味を持っていただいて(笑)、今こうして『Free!』シリーズとして動き出したわけです。

──この企画を最初に聞いたとき、皆さんはどんな印象を受けましたか?

西出:僕は京都さん(京都アニメーション)はずっと男性向け作品を制作されているという認識が強かったので、とても新鮮に感じました。是非やってみたいと思い、すぐに返事をした記憶があります。

斎藤:僕は「上半身」っていうところに並々ならぬ情熱を感じましたね。最初は「なんだろう??」って思いましたよね、「上半身」って……。詳細を聞けば聞くほど、「筋肉を描くのだ!」という思いが凄かったなと。

八田:びっくりされるかな、と思ってました(笑)。

斎藤:びっくりしました(笑)。当時、すごく真面目なプレゼンを受けたので、「上半身」はツッコんでいいのかな、って迷ってました。

──当時、業界的にも「水泳」が主題のアニメは無かったですよね。作画が本当に大変なんだろうなと。

西出:そうですね。過去作品を調べたんですが、水泳モノはわずかしか無くて。

八田:京都アニメーションの『企業CM~水泳編~』で出したキャッチコピーに「新たな挑戦」というものがありまして、京都アニメーションのスタッフの培ってきた作画技術や叡智を結集した何かができないかなと。確かに、水泳や水の表現という難しさもあり、皆が並々ならぬ思いで挑戦していた覚えがあります。

質問

プロデューサーさんのお話が伺える機会はとても貴重なので、楽しみにしております。お仕事をされるうえで、「これは『Free!』の現場ならではだなぁ」と印象に残った出来事があれば知りたいです!

西出:今回の『劇場版 Free!-the Final Stroke-』前編を観ながら、僕は1期、2期の頃の取材のことをかなり思い出しましたね。モデルになった地域をきちんと捉えた作品だなと。他には1期の頃の大変な忙しさも良く覚えています。
キャストの皆さんは本当に忙しかっただろうな、と。16時~21時は本編のアフレコをして、そのあと『イワトビちゃんねる』というラジオ番組の収録をして。ラジオ番組は本来なら短くて良いはずなんですが、キャストさんが盛り上がっちゃって……。

斎藤:収録が終わらないんですよね、楽しんじゃってて。

西出:そのあとに雑誌の取材なんかもお答えいただいたりして。結局、日を越えてしまい、そうするとOAが始まるんですよね(笑)、ちょうど水曜日のアフレコだったので。そんなことを毎週やっているような状況でしたね。僕たちも充実していましたし、キャストの皆さんの活躍にはこの場を借りて感謝したいです。

斎藤:若いからできたことですね。仕事が全て終わった後、食事に行ったりとかもしていましたよね。

──八田プロデューサーもアフレコ時の思い出はありますか?

八田:自分は毎回ラジオ収録を立ち会わせていただいたんですけど、アフレコ後にラジオ収録が無いキャストさんは食事に行って、ラジオ収録組は収録スタジオに連れていかれて、「食事行きたかったなぁ」なんてぼやかれていたり。その割にラジオ収録が始まると、まぁ話が盛り上がるのなんの(笑)。

──どのくらい収録していたんですか?

斎藤:打合せを含めると1時間半~2時間くらいはやってましたね。

ここで、MCから会場の皆様へ、当時の『イワトビちゃんねる』を視聴していたかどうか、会場内アンケートを行った所、ほぼ全員の方に挙手をしていただきました。

──そんなわけで、色々な思い出があるわけですが、大きな出来事もありました。ファンの皆様の間では伝説となっておりますが、TVアニメ2期『Free!-Eternal Summer-』のイベント中に大きな事件がありましたよね?

中村:人生の中でたぶん一番背筋が凍った事件でしたね……。両国国技館でのイベントで、当時『映画 ハイ☆スピード!』の告知をイベント終了後にサプライズで解禁するという予定だったのですが、イベント途中のミニ告知コーナーで間違って突然『映画 ハイ☆スピード!』の予告が流れるというアクシデントだったんですけれども。何がどこで流れるかは当然事前に把握しているわけですが、『映画 ハイ☆スピード!』の映像が流れだした瞬間、『あっ』って。スタッフもすぐ気付いたらしいんですが、止めようも無いし、止めたら止めたで変な空気になってしまうので、これはもう、『キャストを信じよう』と。

一同:(笑)。

中村:パッケージ(※『Free!-Eternal Summer-』スペシャルイベント 岩鳶・鮫柄合同文化祭 Blu-ray/DVD)にも収録されているので、その時の様子は観ることができるんですが、本当にドキュメンタリーとしてすごく良くできていて。告知が流れてしまったときにキャストの皆さんがなんとも言えない良い表情をしているので、結果的には見所になったのかな、と……(笑)。

──あの場面のキャストの皆さんのフォローの結束力は凄かったですよね。

中村:もちろん起きてしまったことはとんでもないことではあったんですけど、ただただキャストさんが凄いなと。感謝しかないです。

斎藤:僕も中村さんと同じで、もう放っておくしかない、と。信じるしかないし、俎上の魚ですよね。そのあと「誰に何を謝ればいいんだ!?」ってすごい頭が回転したし、そもそも「何を謝るんだ!?」って思ってました。

八田:自分はあの時は、血の気が引いてとりあえず動いたんですけど、どこに行ったらいいのかもわからないし、誰に言ったらいいのかもわからなくて、彷徨ってました(笑)。

──自分は関係者席で見ていたのですが、聞いていた流れと違ったけれど、キャストさんも会場も盛り上がっているし「そういう演出に変わったのかな」なんて呑気に観ていたら、皆さんがばたばた走り回っていて。あ、これは事件だったのか、と(笑)。

質問

・岩鳶、オーストラリア、そして東京、ロケ地を思わせる場面が度々見られます。その場所にしようとした理由がありましたら教えてください。また、取材・撮影等の裏話も同時にお聞きしたいです。

・遙と凛がシドニーのホテルで同じ部屋になったのは取材時のハプニングを取り入れたものだそうですが、他にも取材から取り入れたエピソードがあれば教えていただきたいです!

西出:2期を制作する際にオーストラリアの取材をしたいと八田さんから相談がありまして、ABCアニメーションは海外を担当しているので取材用の企画書を用意しました。当時の取材企画書にも「上半身」と「筋肉」と書いてますね(笑)。
アニメスタッフの皆さんに、どこを取材したいのか集約して、各所許可を取って取材に行きます。当時感心したのは、京都のスタッフさんは取材希望を出す際、インターネット上のマップや写真を見て想像力を膨らませてから希望を出されるのですが、実際に行ってみるとだいたいばっちりで、あの想像力は凄いなと。

スクリーンには、ABCアニメーションにて作成された当時の取材用の企画書、取材写真が紹介されました。

斎藤:ホテルの思い出はですね……。当時、脚本の横谷(昌宏)さんも取材に参加されていたのですが、案内された部屋が、何故か僕と横谷さんが二人で同じ部屋だったんですよ。まぁベッドも大きいし分け合って寝れば良いですよって、僕は気にしてなかったんですけど。結局、どう考えてもおかしいって話になって。それでフロントに変えてもらいに行ったんです。

西出:当時、シドニーで大きな国際会議が開催されていて、フロントが結構混乱してたんですよね。こちらとしては「横谷さんは一人部屋」と依頼していたんですけど、フロントの方には伝わってなかったようで。二人部屋で何とかなりませんか、って結構もめましたよね。

斎藤:海外サイズなので本当に大きなベッドだったし、別にいいじゃないですかって。横谷さんには「絶対やだ」って言われちゃったりして(笑)。

西出:そこを上手く脚色して、あの遙と凛のシーンになっている、と。

斎藤:良いシーンになって良かったです(笑)。

八田:僕は、そんな斎藤さんと横谷さんの問答を見ていました。もめてるなぁ、って。西出さんが交渉して「貸出ベッド(臨時ベッド)」を準備したら良いのではないか、とか議論していている所に、内海(紘子)監督が降りてきて「皆さん何してるんですか~?」って。「いやいや揉めてるんですよ」って(笑)。

一同:(笑)。

八田:そうしたら、内海監督が「私の部屋、ベッド2つあってめっちゃ広いんですよ~」と(笑)。

一同:(笑)。

西出:結局、ホテル側の手違いだったということで、改めて整理していただいて事なきを得ました。

──楽しそうですね、オーストラリアロケ。

斎藤:美味しい物たくさん食べましたよね。

八田:ミートパイが美味しかったですよね。取材に行ったミートパイ屋さんが「今、取材で回ってるんです」って言ったら「そうなんだ!俺も出してよ!」って、凄いアピールをされて。実際にエンドカードで絵になりました(笑)。

西出:5日間でシドニー周辺をしっかり回れました。

斎藤:みんな仲良くなれたし、結束力高まったのが何よりも良かったですね。

西出:本当に美しい街で、オリンピックも既に2回やっている都市だったので、シドニーとメルボルン、それぞれのオリンピックプールを取材できたのも良かったです。シドニーオリンピックのプールは、今回の『劇場版 Free!–the Final Stroke–』でも活躍している近代的で綺麗な所です。メルボルンオリンピックのプールがレンガ作りの美しい所で、本編では凛の練習用プールとして活用されています。水泳を表現するには本当に良い街だったんだなと実感しました。

質問

こだまさおりさんが作詞された楽曲の数々が本当に大好きです。こだまさんに作詞を依頼する際、どのように依頼をしていますか?難しい言葉は使わずに心に響く歌詞をつけて下さることに毎回脱帽しています。

斎藤:こだまさんは『Free!』が始まる時点でもう信頼関係のできあがっている作詞家さんでした。作詞家さんによって歌詞の発注方法は様々なんですけど、こだまさんの場合は、まずストーリーをしっかり説明して作品を好きになってもらう。その上で、アニメスタッフ側のこだわりポイントだけをお伝えして、あとは自由に書いてもらう。最初に書いていただいた数曲で素晴らしい物が上がってきたので、これはもう大丈夫だという安心感もあって、以降はこだまさんが自由に書いてくださったものが採用されるということがほとんどです。我々はこだまさんの才能に寄りかかっている状態で、こだまさんの才能を発揮してくださいという発注ですね。

質問

サウンドトラックも含め、みなさんの一番好きな音楽(曲)が知りたいです!

八田プロデューサーから、個人的なイチオシの曲として2015年公開の『映画 ハイ☆スピード!-Free! Starting Days-』より『Pure blue starting』が紹介されました。

八田:1期、2期のあと、『Free!』の「Starting Days」を描くということで、武本監督と音楽のイメージをどうするのかと悩んでいた所、この曲が上がってきて「これは行ける!」と思ったんです。この曲はそんな心打たれた一曲です。

斎藤:この曲の発注も僕の方で担当させていただきました。1期、2期はある程度成熟した彼らを描いているので、アグレッシブさやキャッチーさを重要視して作られていたんですが、『映画 ハイ☆スピード!』は若い頃を描いているので、初々しさとか、より一層の純粋さを表現しないといけない。映画であることも含めて、純粋・ピュアという観点に立って音作りをしましょうねって話を加藤(達也)さんにしました。
そこで、加藤さんが紡いできたのがこの「大きな旋律」だったんです。この旋律で彼らの純粋さを加藤さんなりの手法で表現するという。あとは、コーラスもたくさん入っていて、加藤さんが編み出したのが、これからの『Free!』作品に相応しいのは、声、だろうと。若さを彼なりに考えた一曲ですね。

八田:どの曲も作品のテーマに沿った曲作りをしていただいて、画面作りにも大きな影響を与えていただいたなと思います。いまだにオーケストラコンサートで聴いても味わい深い曲だなとジーンと来ます。

質問

今回の『劇場版 Free!-the Final Stroke-』の海外展開の速さにびっくりしています!過去のシリーズも含め、海外展開にあたり、苦労したことや印象的なエピソードなどあればお聞かせください。

西出:これは良い苦労なのですが、我々海外担当は、海外に正規版を流通させるのも大切な仕事でして、国内のクオリティの高い商品に見合う商品を海外にもライセンスして流通させるのも使命です。とてつもない数の申請を処理して、数百もの版権を動かします。できるだけ正規の物を流通させようと頑張ってきました。
印象的なことといえば、2013年のアメリカでの『AnimeExpo』というアニメイベントですね。ロサンゼルスで開催されたイベントで、遙達のコスプレをした青年たちが「いっぱい」歩いていました。

──皆さん、現地の方で?

西出:ロサンゼルスなのでアジア系の方も多く、似合うんですよね、遙たちのコスプレが。体も鍛えているし、水着も自作されて。この作品は本当に凄いなと思いました。

──さて、貴重なお話をたくさん伺えましたが、お時間が迫って参りました。最後に皆さんから一言ずつご挨拶をいただきましょう。

西出:皆さんお忙しい中、足を運んでいただきありがとうございました。今後も『Free!』を応援していただければありがたいですし、『後編』も是非期待していただけると嬉しいです。

斎藤:今日は本当にありがとうごいました。僕も『後編』が大変楽しみで、皆さんも是非、「凄い期待して」待っていてください。宜しくお願いします!

中村:今日はお越しいただきありがとうございました。本当に長い間『Free!』という作品を皆さんに支えていただいて、我々も本当に感謝しています。『後編』も素晴らしい作品として届けられると思いますので、楽しみに待っていてください。その前に『前編』も何度も観てただけると嬉しいです。今日はありがとうございました。

八田:今日はご来場いただきありがとうございます。8年間、凄く長い間、作品のことを愛していただいて、ここまで続けてこられたのは皆さんの支えや応援があったからこそです。こういった場を迎えられていることを心から感謝いたします。制作陣は企画から9年携わっておりますが、一人一人色々な想いを持ちながら、バトンを繋ぎながら、心を込めて皆様に良い物をお届けするために、今は『後編』の制作に取り組んでおります。そういったスタッフの想いも皆さんと共に在っていただきたいと思います。

ここで、八田プロデューサーより、『Free!』シリーズキャラクターデザインの西屋太志さんが、2014年『Free!-Eternal Summer-』のアフレコ終了時にキャストへ贈ったイラストメッセージがスクリーンにて紹介されました。

八田:こちらは2014年当時、キャラクターデザインの西屋がキャストさんへの感謝の想いを伝えたいということで贈ったイラストになります。こういった想いを我々もずっと繋いで行き、これからも作品を作り続けたいと思っております。そんな想いをスタッフからも伝えたいということで、この度「スタッフトーク付上映」を企画させていただきました。

<2021/10/21(木)・10/28(木) スタッフトーク付上映 詳細はこちら>

八田:本会場が京都にはなりますが、監督始めメインスタッフによるトーク付上映を二週に渡って開催させていただきます。色々な思いを継いだ熱いトークが聞けると思います。そんなスタッフの想いを皆さんと共有できればと思います。
改めまして、本日は本当にありがとうございました。

以上にて、大きな温かい拍手と共に、プロデューサートークは終了いたしました。
プロデューサートークは大好評につき、第2回目を企画進行中です。引き続き、『Free!–the Final Stroke–』前編をお楽しみください。