『Free!シリーズオーケストラコンサート2025-Starting point for a New Journey-』イベントレポート
『Free!シリーズオーケストラコンサート2025-Starting point for a New Journey-』が、5月18日(日)にSHIBUYA LINECUBE(東京公演)、5月24日(土)にとりぎん文化会館梨花ホール(鳥取公演)で開催された。
東京、鳥取ともに島﨑信長(七瀬遙役)、松元惠(七瀬遙(幼少期)役)、加藤達也(音楽・ピアノ)、Zinee&issei(コーラス)、竹村直哉(ソロサックス)、吉田行地(指揮)、Heartbeat Symphony(管弦楽)が登壇。さらに、ギターとして東京公演は遠山哲朗、鳥取公演は佐々木“コジロー”貴之を迎えた。※敬称略
2019年に始まった『Free!』シリーズ劇伴コンサートは、これまでバンドやオーケストラなど、形を変えながら公演を行ってきた。そして今回、『Free!』シリーズすべての劇伴を担当する加藤達也が、セットリストをはじめ、舞台演出、公演タイトル決めに参加し、これまで温めてきた作品への想いを注ぎ込む。また、本公演の新たな試みとして「紗幕」という半透明の舞台幕が使用され、照明位置によって幕の内側が見え隠れする紗幕の特性を活かした演出がふんだんに盛り込まれている。そんな進化し続けるコンサートの様子を、東京と鳥取を交えて紹介していく。
開演前BGMとして岩美町で収録された海の波音が流れる中、場内が暗転。暗闇に一筋の光が差し、「A boy in the water」が始まる。そして、島﨑さん、松元さんが登場し、子供から大人、過去から未来へバトンを繋ぐように、七瀬遙の「水は生きている」を生披露した。続いて、『Free!FS後編』より「Still life goes on」。紗幕に『Free!FS後編』の冒頭シーンが映し出され、オープニングにふさわしい軽快なリズムにのせて観客を『Free!』の世界へ誘っていく。映像の最後には本公演のタイトルロゴが浮かび上がり、島﨑さんのタイトルコールとともに公演の幕が上がる。
再び島﨑さん、松元さんが登壇し、MCコーナーへ。島﨑さんにコンサートの見どころを聞かれた加藤さんは「今回はこれまでのコンサートとは少し雰囲気が違います」と言い、「皆さんにも参加していただけるような体験型のコンサートにしたいと思い、準備を進めてきました。鳥取県や岩美町とのコラボレーションということもあり、今回ならではの演出を楽しんでいただけると思います。盛りだくさんでお届けしますので、ぜひついてきてください!」と語りかけると、会場から大きな拍手が送られた。
前半は無印の楽曲からスタート! レース曲として印象的な「Brilliant swim」ではZinee&isseiのモノローグセリフが入り、コンサートならではの臨場感あふれる仕上がりに。次の「Rhythm of port town」×「Rhythm of hometown」では2曲をマッシュアップしたスペシャルバージョンを披露。紗幕には遙の実家や港など、モデルになった岩美町の実景が映し出され、まるで岩美町を歩いているような気分に酔いしれる。続く「Aggressive groove」ではこれまでの雰囲気から一変。ギターや拡声器を使ったボーカルパフォーマンスが加わり、ライブ感強めのアレンジで会場のボルテージを上げていく。
そのまま『Free!ES』の楽曲「Join us!」へ。陽気なビートにあわせて会場にクラップが響き渡る。続く「Powerful swim」では、全国大会に挑む岩鳶高校VS鮫柄学園のリレーシーン(ES13話)が映し出され、遙たちにエールを送るように会場のリングライトが大きく揺れる。

続いては「Only for your future」。スクリーンに映されたのは、遙と真琴が高校卒業後の進路について本音をぶつけ合うシーン(ES11話)。加藤さんのピアノソロに始まり、会話の盛り上がりに合わせて音に厚みが増していく。そして、塞ぎ込む遙に対して真琴が放った「良いわけないだろ!」の一言で演奏の盛り上がりは最高潮に達し、シンクロする音楽と映像が、アニメ本編の感動を呼び起こす。

客席が熱気に包まれる中、『映画 ハイ☆スピード!』の楽曲へ。中学生になった遙が紗幕に映ると、本編と同じタイミングでマッシュアップ楽曲「Pure blue starting」×「Starting days」が始まり、瑞々しい旋律が駆け抜けていく。続く「My true self」は、遙と真琴が夜のプールで泳ぐシーンでかかる楽曲。ステージが月明かりのように煌めく照明で彩られる中、オーケストラの音色が華やかに舞う。そして、「Starting to the future」では凛が遙に向けて書いた手紙が紗幕に映し出されていく。「あの時の“お前”が、今も俺の前を泳いでるんだ。俺、“お前”みたいに」という一節では「お前」が「あいつ」に書き換わり、まるで今ここで凛が手紙を書いているような臨場感あふれる演出に驚かされる。
前半ラストを飾るのは『Free!DF』の楽曲。大学生になった遙たちの新たな旅立ちを想起させる「Rhythm of new sensation」に始まり、遙と郁弥が再会を果たす「Deeper down」へバトンが繋がる。紗幕には舞台になった夕景の歩道橋や、東京の街並みのタイムラプスが映し出され、遙たちの世界と現実の境界が融合していくような没入感ある演出とともに演奏が披露された。
余韻に浸る中、加藤さんのMCコーナーへ。加藤さんは次の「Starlight alliance」について、中学生の遙と郁弥が流星群を見ながら勝負することを約束した時の楽曲であることに触れながら、「今日は会場の皆さんにも、リングライトやスマホのライトを点灯していただき、一緒に満点の星空を作りたいと思います」と呼びかける。そして、真っ暗な場内に一つ二つと星が輝き、演奏が始まる。音に合わせて会場の光が揺れると、まるで流星群が空から降っているような幻想的な雰囲気に包まれた。その後、前半ラストを飾ったのは「Into the new world」。加藤さんの立ち弾きをはじめ、奏者が一体となって魅せる熱いステージで、会場は終始熱気に包まれたまま、前半が終了。
その後、島﨑さん、松元さんが登場し、加藤さんを交えたMCコーナーへ。
ここからは東京公演、鳥取公演それぞれの様子をレポートしていく。
【東京公演】
本公演のコンセプトについて聞かれた加藤さんは「これまで開催してきたオケコンと、バンドライブツアーを融合させたものを表現したいという思いがありました」と語り、「今までは演奏の後ろにあるスクリーンを観ながら楽しむ形が多かったのですが、今回は演奏よりも前に紗幕があり、アニメの映像や実景が映る奥から音楽が聞こえてくることで立体感が生まれたんじゃないかと思っています」と語った。
島﨑さんは「A boy in the water」での生セリフに触れて、「今回紗幕があったことで七瀬遙というフィルターを通して、我々の声を届けることができたように思います」と振り返った。そして、松元さんが実景映像の話に触れると、話題は「Rhythm of port town」へ。加藤さんは「昨年岩美町に伺った時に収録した映像素材があって、無印1話冒頭で真琴が遙を迎えに行くシーンをイメージして、真琴視点風に撮影してもらった映像を使用しています」と裏話を語る。さらに、原点である「Rhythm of port town」と、『FS前編』で東京から岩鳶に帰る時の「Rhythm of home town」を融合させることで帰省する遙たちと同じ気持ちになってもらえたら、という演出意図があったことを明かすと、会場から大きな拍手が起こる。

また、「Deeper down」の演出について、加藤さんは「スタッフの方にロケハンをしていただいて、実際に夕方の歩道橋を撮っていただきました。人や車の往来を映したタイムラプスシーンは歩道橋に近い場所で、遙と郁弥が会えない間の時間の流れを表現しました」と語る。島﨑さんは「ここまで没入感があってみんなが参加できるのは、これまでの積み重ねがないと難しいですよね」と伝えると、加藤さんは「『Free!』シリーズと、応援してくださるファンの皆さまの一体感や、作品に対する気持ちの大きさがあるからこそ、自分たちも楽しんで演奏できているんだと思いました」と熱く語った。前半の公演を振り返って、松元さんは「本当に映像からも伝わるんですけど、キャラクターが必死に戦っている姿が音楽と一緒に伝わってきました」と感動を伝えた。

【鳥取公演】
まずは前半公演を振り返る一同。松元さんは、「奏者の皆さまが本当に生き生きと演奏されていて、胸がいっぱいで感動しています! 素晴らしい音楽を会場の皆さまと共有できて嬉しいです!」と語り、観客は大きな拍手で応えた。島﨑さんが「回を重ねるごとにどんどん瑞々しく洗練されていきますね。これは何度でも聴きたくなりますね!」と言うと、加藤さんも「皆さんからの声援が大きければ大きいほど可能性は広がりますから」と熱く語り、会場に期待を込めた歓声と拍手が起こった。
続いて、加藤さんが岩美町で遭遇した不思議体験の話へ。加藤さんは当時を振り返りながら、「大抵の猫は側溝を歩いているんですけど、僕たちを導いてくれる一匹の猫がいて、後ろをついていったらとても綺麗な景色のところにたどり着いたんです。猫に岩美町を紹介してもらえたような気がして、すごく素敵な思い出になりました」と語る。そうして岩美町にまつわる話が語られる中、加藤さんは本公演のタイトルである「-Starting point for a New Journey-」に込めた意味を明かす。「“Starting point”は岩美町であり、岩鳶町であり、『Free!』にとっての“原点”という意味が込められています。“for a New Journey”は、普通の旅立ちじゃないことを表現したくて、“New”を付けたいと思いました」と言い、続けて「僕個人として感じていたのは、まずファンの皆さんの人生に『Free!』があって、皆さんの人生のフェーズが変われば新たな旅立ちが訪れると思うんです。色々な年代の方が『Free!』を愛してくださっていますが、それぞれが思い描く“新しい旅立ち”を今回の公演を通してみんなで一緒に感じられたら、という想いを込めました」と熱い想いを語った。
そして、島﨑さんが加藤さんに「これまで公演を重ねてきて、心境の変化はありましたか?」と尋ねると、「2021年のオケコンでは『Free!FS前編』までの楽曲しか演奏できなかったので、『Free!FS後編』の楽曲のオーケストラアレンジは今回の聴きどころの一つだと思います」と、見どころを伝えた。さらに、今回の演奏を担当するHeartbeat Symphonyについて、若い奏者が多く、練習を重ねるごとに表現力の幅やエネルギーが増していることを感じると感慨深そうに語った。そして最後に「ぜひ、音と映像と照明の中に身をゆだねて、存分に没入感を味わっていただきたいです。皆さんも遠慮せずに思いっきり声を出して、体を揺らして、楽しんでいただければと思います!」と、客席へ呼びかけると、会場からは大きな歓声が上がった。
そして、公演はいよいよ後半へ! ここから『Free!FS』の楽曲が続いていく。まず1曲目は「Don't matter anymore」。バックスクリーンに「死神」の異名を持つ世界記録保持者・アルベルトが映し出され、遙たちを圧倒するような荒々しい旋律が鳴り響く。その勢いのまま「We could be free」へ。世界で戦う遙たちを彷彿とさせるアップテンポなメロディーと、Zinee&isseiの力強い歌声で会場を盛り上げる。続いて、遙が自分自身と向き合う楽曲として、「Go back to my origin」×「Promised myself」のマッシュアップバージョンが披露された。「Go back to my origin」では松元さんが登場し、小学生の遙として水や仲間に対する複雑な心境をモノローグにのせて生披露。その後の「Promised myself」では島﨑さんも登場し、『Free!FS後編』で現在の遙から過去の自分にエールを送るシーンを熱演した。

『Free!FS後編』における遙と凛のレースと言えば、「Like a magnet」。紗幕には遙と凛が東京のプールで泳ぐシーンが映り、凛にほだされながら自分自身を取り戻していく遙の姿に胸が熱くなる。続く「Dolphin's back」は元々ピアノソロだった劇伴をオーケストラアレンジで披露。「Only for you」などのメロディーモチーフも使われ、新しくもどこか懐かしいメロディーが、紗幕に映る遙と真琴の思い出を鮮やかに彩っていく。そして、「Before anyone else」、「Take over zone」と曲は続き、世界大会のリレー楽曲「The final stroke」へ。ここでは演奏に交じって、決勝リレーを繋ぐ宗介、郁弥、凛、遙の掛け声が響き、未だかつてない没入体験へと誘われる。そして、後半ラストを飾るのは「Words that changed my life」。桜の木の下で遙と凛が本音をぶつけ合うシーン(無印12話)が流れ、遙が凛に手を差し伸べるところで会場に花びらが降り注ぐ。アニメ本編を追体験しているような感覚と、感動的な雰囲気に包まれながら後半を終えた。

アンコールは東京、鳥取ともに、昼の部は「SPLASH FREE」、夜の部は「EVER BLUE」を披露。ここでスクリーンに映し出されたのは、会場近くの様子と奏者たちの練習風景、そして、有志のファンがカメラに向かって『Free!』への想いを表現する姿だ。ファンムービーは開演前に撮影が行われ、まさに参加型を体現する最高の演出となった。その盛り上がりのまま「This Fading Blue」がライブバージョンで披露されると、観客も体を揺らしながら音楽に身をゆだねる。
身も心も『Free!』で満たされる中、本公演もついにラストスパート。大きな歓声に迎えられ、島﨑さん、松元さん、加藤さんが登場。そして、スペシャルゲストとして、東京では昼夜ともにイワトビちゃん、サメヅカちゃんが登場! さらに、鳥取の昼公演は岩美町長・長戸清さんと岩美町PRキャラクター・いわみん、夜公演は鳥取県知事・平井伸治さんが登場し、鳥取を訪れた会場のファンを歓迎した。
トークに花を咲かせた後、島﨑さんから加藤さんに「もう一曲お願いしてもいいですか?」とラブコールが送られると、会場に歓声が轟く。加藤さんは次の楽曲「Never seen landscapes」を紹介し、「皆さん一緒に歌っていただけますかー!」と投げかけると、客席は「フーーー!!」と、大歓声で応える。そして、千秋楽を迎えた鳥取の夜公演では、加藤さんから「最後の1曲です! みんな立ちましょう!!」の呼びかけで全員立ち上がり、この日一番の盛り上がりを見せる。そして、『Free!』オーケストラコンサートの定番「オーオー!」の大合唱が会場いっぱいに響き渡ると、最後にシルバーとゴールドのテープが発射され、すべての演奏が終了。終幕後も「ありがとう!!」といった歓声が何度も飛び交い、感動のフィナーレを迎えた。
